1.01 ケイビングガイドの必要性
なぜケイビングガイドが必要なのか
近年、洞窟探検、ケイビングという言葉が一般に少しずつ知られるようになってきた。これまで一般的に洞窟とは、観光地にある鍾乳洞以外は-部の専門家しか足を踏み入れることが出来ない世界だと考えられてきた。しかし、欧米では職業として専門知識と専門技術を兼ね備えたガイドが洞窟を案内している。なぜ専門のケイビングガイドが必要なのか?ケイビングの対象になるのは洞窟である。洞窟に入るときは、洞窟が外界から隔絶された空間であり、地理的に迷路状になっていて迷いやすく、さらに足元が不安定な場所や、地下水の影響を受けやすい場所が点在しており、それらのことを熟知していないと非常に危険な空間であることを知っていなければならない。また、洞窟の中には貴重な二次生成物(鍾乳石など)や考古学的に有用な遺物などがあり、学術的にも貴重な存在だが、「なぜここにあるのか?」「どのように作られたのか?」それを知らないかぎりその価値もすばらしさもわからない。またそれらとの関わり方、取り扱いには専門的な知識が必要である。すべてが壊れやすく、一度破壊されてしまうと二度と修復できないことが多い。安易に移動、採集はしてはいけないことも、知る必要がある。洞窟の中に見られる貴重なものには、洞窟生物もあげられる。洞窟のなかの生物には、学問的に貴重な種類や、絶滅危慎種も多数見られる。やはり洞窟や洞内の生物に対して、できるだけストレスやインパクトを与えない行動をとることがこれらの保護につながる。
洞窟に関する専門的な知識を有し、一般の参加者にレクチャーできるスキルを持ったガイドが同行することで洞窟は守られ、本来のすばらしさを伝えることができる。洞内環境を守りながら洞窟を楽しんでもらうことがガイドの使命なのである。そして洞窟に対しての深い知識と専門技術は、一般の参加者に還元されるべきものであり、それと洞窟自体の自然環境を守るために一般の参加者に「洞窟」を正しく知ってもらうための専門的なレクチャーが必要である。一般参加者にとっては、洞窟を熟知したガイドに案内されることで、環境に配慮しながら洞窟のすばらしさを知ることができると共に危険を知り、回避できる安全なケイビングが行える。これらのことからケイビングツアーには洞窟に関する多方面に亘る知識とスキルを兼ね備えた、必ず専門のガイドが必要不可欠であると言える。そして一人前となったガイドが増えることで、洞窟のすばらしさを伝え、洞窟ファンを増やし、将来的にケイビングの発展につながっていく。また洞窟を知ることで「守らなければならない」という気持ちが芽生え、環境保護にも関心が集まる。
洞窟の特殊性
アウトドアアクティビティのフィールドで一般的なものは山・川・海になるかと思います。それらのフィールドとは異なる点を解説する。
光源が一切ない
洞窟内には一切の光源がなく、持ち込んだライトの明かりのみで進むことになる。つまりライトを失くしたりライトの電池が切れてしまうと何も見えなくなってしまう。他のフィールドでは夜でも星明りや月明かりで多少は周囲の状況を把握できるが、洞窟ではそれも出来ない。
電波が届かない
洞窟の中は外界からは完全に遮断された空間となるため、携帯電話の電波は届かない。GPSの電波も届かないため、その類の電子機器は役に立たない。また洞窟の壁が電波を吸収する性質を持っていることがほとんどなため、無線機も短距離でしか使えない。
迷いやすい
日本の洞窟は基本的には狭くて暗い部分がほとんどである。他のフィールドのように距離の離れた部分を視認することは出来ない。また通路が曲がりくねっていたり細くなったり急に広くなったりするため、慣れていない洞窟ではベテランでも気を抜くと自分がどこにいるのか・帰り道はどれなのかわからなくなってしまう。
レスキュー隊が入ってこれない
日本には洞窟を専門としたプロのレスキュー隊は存在しない。そのためケイビングガイドがツアーで使うような洞窟の場合、警察や消防にレスキューを要請しても二次被害の懸念があるためすぐには対応してもらえない。そのため、他のフィールドでは大したことがない怪我や病気でも、洞窟では命の危機となってしまうケースがある。
またエスケープルートというものが存在することは稀で、洞窟内で何か問題があったときは来た道をたどって引き返すしか外に出る方法はない。これも大したことのない問題が大事になってしまう要因の一つである。
環境が再生しない
洞窟は水の水位以外の変化は何千年単位のゆったりしたものとなる。そのため破損・汚損したものは放置しても数年・数十年程度では再生しない。ゴミや排泄物も分解されず、たとえ自然由来のものであってもその場に残り続ける。そのため「持ち込まない・持ち出さない」の精神が重要となる。
ケイビングガイドに求められるもの
安全意識
洞窟の特殊性で解説した通り、洞窟内で怪我や病気になってしまっても必ず自力で脱出しなければならず、レスキュー隊に頼ることはできない。そのため、他のフィールドでのガイドに比べて「絶対に事故を起こさない」という意識と事前準備が重要となる。
身体能力・スキル
これは山岳ガイド等にも共通して言えることかもしれないが、お客様を気遣うだけの余裕がなければガイドは務まらない。自分が現地に行くだけで精一杯のガイドは体力的にも精神的にも余裕がないため、お客様のことを気遣って危険を避けるよう行動することが出来ない。
お客様を楽しませる
お客様を安全に洞窟に連れて行けるようになれば、次に求められるものは「いかに楽しませるか」である。ケイビングガイドを商売として継続的に成り立たせるためには、お客様に「また来たい!」「高いお金を払った価値があった」と思わせ、ツアーをリピートして頂いたり、お客様が友人に自慢できるようなツアーにしなければならない。