4.02 事前調査・準備
概要
人工洞は事前に生成されたものではなく人工的に作られたものであるため、自然洞にはない危険や注意点がある。ここでは人工洞を事前調査する際の安全管理や調査のポイントを解説する。
人工洞の注意点
酸欠・二酸化炭素中毒
鍾乳洞は石灰岩の節理が大きくなったという生成原理により空気の流れがある洞窟がほとんどであるが、人工洞の場合は換気孔を作られたものでないと空気が停滞している可能性がある。
このような場所は様々な要因により酸素濃度が異常になっている空間があり、場合よっては一呼吸で意識を失ったり即死してしまう。
人工洞とは少し異なるが、下水道では雨水が腐敗して微生物が酸素を使い切ってしまい、酸素濃度が下がっていたために作業員が死亡してしまう事故が発生している。また鉱山でも酸素濃度が5%程度になっており興味本位で入った方が死亡する事故も発生している。
ちなみに富士山の山頂の酸素濃度は13.5%。
酸素濃度 | 症状 |
---|---|
16%~18% | 息苦しさを感じる |
12%~16% | 頭痛・吐き気 |
8%~12% | 目まい・筋力低下 |
6%~8% | 一呼吸で失神・7~8分で死亡 |
6%未満 | 一呼吸で失神・ほぼ即死 |
また酸素の量が十分でも二酸化炭素濃度が高ければ酸欠となる。空気の成分は窒素(N2)78.1%、酸素(O2)20.9%、その他1.0%となっており、比重は窒素より若干重い程度になる。二酸化炭素は空気よりも重い物質となるため、空気が停滞した場所では低い場所にたまりやすくなる。
通常の空気では0.04%程度の濃度となるが、以下の濃度になると症状が現れる。
二酸化炭素濃度 | 症状 |
---|---|
3%~6% | 数分から数十分の吸入で、過呼吸、頭痛、めまい、悪心、知覚の低下 |
10%以上 | 数分以内に意識喪失し、放置すれば急速に呼吸停止を経て死に至る |
30%以上 | ほとんど8-12呼吸で意識を喪失する |
このような事故を防ぐためにガス検知器を事前に準備しておくことが重要。具体的な使用方法については「装備」を参照。
また、前を入る人が倒れた場合は安易に近づかないよう注意する。前述のとおり一呼吸で失神する場合もあるため、安易に近づくと二次被害が発生する可能性がある。このような事態が発生した場合は、速やかに来た道を戻って救助を要請する。
有毒ガス
酸欠での解説と同様に、空気の流れがなければ有毒ガスや可燃性ガスが滞留している危険性も出てくる。一般的なものでは一酸化炭素(CO)、硫化水素(H2S)、可燃性ガス(メタン、イソブタン等)と言われている。
これらのガスによる事故を防ぐためにもガス検知器が必要となる。
崩落
人類以上の長い歴史を経て生成されたという実績がある自然洞とは異なり、人工洞はせいぜい数十年程度のものが多い。そのため探検中に崩れてしまう可能性は自然洞に比べて圧倒的に高い。中には手掘りしただけで何も補強がされていないものもあり、洞壁がボロボロと崩れているものも多い。
そのような人工洞はいつ崩落して埋まってしまってもおかしくなく、ちょっとしたことが引き金で崩落が始まる危険性がある。洞壁には絶対に触らないことが重要。また大きな声や音による空気の振動で崩れる可能性もあるためこれも避ける。
万が一のために細引き等を体につけておいて、埋まってしまった際に手繰ることで位置を調べることもできる。その際には細引きが洞壁を擦って、細引きが原因で崩落してしまわないよう注意する。
装備
服装等については横穴装備と同じため割愛し、人工洞で必要な装備について解説する。
ガス検知器
酸素濃度系と4種ガス検知器が一緒になったものがよい。購入すると10~20万円ほどするため、使用頻度が高くないのであればレンタルがおすすめ。必ず専門機関で校正されて正常に動作すると確証のとれたものを使う。

実際に使用する際は以下の点に注意する。
- ガス検知器はチームで2台以上用意する。万が一片方が破損した場合は有毒ガスや酸欠に気づかない可能性もある。
- ガス検知器はカバンやポケットの中に入れず、必ず体に身に着ける。カバンの中では外気に触れないため検知が遅れてしまう。
- 梯子で上り下りするなど高低差が急に変わる場合は、2m以上の長い棒にガス検知器を括り付け、行きたい空間に先に行かせて警報が鳴らないかを確認する。場合によっては警報が鳴ると同時に失神・即死する可能性もあるため、濃度が大きく変わるような場所は検知器を先に行かせて確認する。