1.02 ガイドの責任・資質
ガイドに対する対価は、何に対して払われるのだろう。それは、安全に対して支払われるものと考えられるだろう。ガイドは全能力を駆使して安全に洞窟探検が完遂するべく努力しなければならない。ガイドの仕事は、山において顧客の望む行為(洞窟探検)を完遂させることである。ただし、安全が第一である。ガイドの責任を考えるとき、次のような点を考慮しなければならない。
「危険引き受けの法理」…(共同危険行為)
本来危険が内包されている行為を行うものは、予め内包されている危険によって起こされる結果について、容認しているとみなされる。…(自己責任、自己決定の法則)
ただし、共同危険行為者であっても、内包される危険についての予知予測能力および危険回避能力は、ガイドと顧客では大きな違いがある。顧客にとってもガイドにとっても洞窟探検を完遂することが最大の目標であるが、その前提に安全であることが確保されなければならない。それでも事故が起きないとはいえない。事故の個々の原因解明はしなければならないが、ガイドとしての自分の能力をすべて傾けた登山だったと常にいえるガイドを続けていく責任がある。
ガイドの注意義務
ガイドはいかなる場合も注意義務の責任を負う。この責任は、ガイド契約時における契約内容によって定まるが、仮に登山ガイドで例えると「ガイドの業務は、登山道の道案内のみに限り、注意義務は、他の引率者に委ねる」(学校登山のようなガイドレシオを逸脱する可能性のある場合によっても)包括的免責条項を無効とする法解釈からガイドの注意義務の範囲を道案内に限定することはないとされている。
注意義務とは予め危険を予見できるかどうかという点に尽きる。注意義務が問われるのは事故等が発生した後の問題である。仮に顧客が転落し重傷を負った場合、転落を未然に防ぐ措置を取っていたかどうかを問われる。年少者や高齢者の場合、一般的な登山道であっても転倒、転落する可能性がある。このことを予見できたかどうかが問われるのである。しかし、一般登山道を歩くことは、登山者自身の責任において行われ、本来ガイドの責任は問われない範囲である。顧客の状態、現地の状況を絶えず観察し、把握しておくことが重要だ。つい、見落としがちになってしまうが、いかなる場合も注意義務は怠ってはならないことを心がける必要がある。
ガイドの資質・適性
ガイドは単に山を案内したり技術提供者ではない。洞窟の楽しさ、喜びを与えることができ、人間関係にも目を向けることのできる人柄であることが望まれる。技術、体力、経験が優れていることは基本条件であって、まず個人としての優れた探検技術の持ち主である上に、社会から信頼される人間性と、指導者としての資質と幅広い知識と教養を身につけていることが要求される。ガイドは洞窟探検の遂行と安全確保の責任者として位置付けられる。ガイドの資質として「強い責任感、優れた技術と経験、統率力、指導力、冷静な判断力と決断力、さらに包容力や温情、などの人格的魅力」などが望まれる。広い視野と優れた登山観、ガイド観の持ち主であり人間味といった性格的要素が求められる。以上のことからガイドの資質は次のようにまとめることができる。
- 責任感が旺盛であること
- 専門的な知識、技能に優れていること。
- コミュニケーションスキルがあり統率力、指導力があること。
- 冷静な判断力、決断力があること。
- 危険に対する注意深さと鋭敏な感知能力を持っていること。
- 人の心理、感情を読み取る能力をもっていること。
ガイドは、常に言葉づかいや容姿に注意を払い、規則正しく誠意をもって接し、考え方、感情の表現、音声にも心配りが必要である。また義務感が強く、活気に満ち、親切で信頼のおける人物であること。その上、相手の気持ちを理解でき尊重し、よい人間関係を維持しようと積極的に協力し、協調性に富んでいる人。洞窟探検のルール、マナー、エチケットなど道徳規範を守り、手本になるような態度・行動が重要である。
したがってガイドとして望まれるのは、資質プラス人間性であり、それらを持ち合わせることにより信頼感が生まれ、連帯感となって、よりよいコミュニケーション作りにつながることになる。多様なニーズに的確に対応するため、常に自己研鐙を図り、自ら成長・発展し、周囲から尊敬・信頼される人間であることが求められる。しかしこれらの能力を十分に兼ね備えたガイドを求めることは、現実的に非常に難しいことである。大切なのは、ガイドは常に「ガイドとは何であるか」ということを自問自答し、プロフェッショナルとしての自覚と誇りを持ち、自分の欠点を知り、改善に務めようとする意識と努力が必要である。
ガイドの役割
ガイドの役割は適切な判断の下に、洞窟探検を安全に遂行することである。また危険を予測し、その回避のために正しく判断し、確固たる決断を下して顧客を危険から回避する責任がある。ガイドは常に、的確な判断と指示をしなければならない。以下にその役割と責務を列記する。
- ガイドは、顧客あるいはパーティの探検能力(技術、体力、知識)を十分把握し統率しなければならない。
- 事前にコースの状況、危険箇所、気象状況、地形など十分把握した上で、危急時に備え適切な体制を整えておくこと。
- 顧客の心身の状況をよく観察し、適切な指導と余裕ある行動をするよう心がけなければならない。
- 行動中、考えられるあらゆる事態を予測、認識し、それらをもとに適切に判断する。
- 危険を鋭敏に察知し人命を守るために、あらゆる努力を払うこと。
以上のことが確実に正しくできることがガイドの役割であり責務である。時として判断ミスにより事故を起こしたり、事故に至らなくても顧客を危険に晒してしまった例は多い。例えば顧客の「大丈夫です」の一言で無理な行動をし、結果として疲労しすぎて行動不能に陥った例は少なくない。また体調だけでなく、ロープによる確保の必要性、そして悪天候時の行動判断、その他の安全対策は、必ずガイドの客観的な判断のもとに行うべきである。登山の中止を告げる場合は、後のトラブルを避けるためにも、その場で十分な説明をして顧客の理解を得ることが重要だ。