6.03 安全確保のためのロープ技術
概要
前章でクライミングが必要な洞窟での注意点について解説したが、前章でも述べた通り段差が3mを超えるようなところは万が一滑落した際に怪我をしてしまうリスクがある。そのような際にはロープを使用して安全確保をすると良い。
ここでは「ロープがなくても登り降りは可能だが念の為ロープで確保を取りたい」という場合のロープ技術について解説する。ロープに完全に荷重を掛けるようなケースには本章の技術では危険なため、本格的にSRTを使用することになるため注意が必要。
必要な機材
ロープ
万が一滑落したときのための確保には「ダイナミックロープ」と呼ばれるロープを使用する。ロッククライミング等で主に使用されるもので、耐荷重が1tを超えるだけでなく荷重をかけた時の伸び率が高いため、ロープが伸びることで落下した時の衝撃を和らげてくれる。(その反面、SRTではかなり使いづらい)
長さは洞窟の段差+数メートルは最低限必要。参加者に結びつける分だけでなく、後述の下降器に巻き付けたりバックアップにフィックスしたりと何かと必要になるため、ある程度の余裕は欲しい。
太さについては9~11mm程度のものがよく使われる。太さによって耐荷重は変わらない。太いものは岩等に擦れたときに切れにくく、細いものは軽くて柔らかいので扱いやすい。洞窟の形状や使用するシーンに応じて太さを選ぶと良い。
下降器
下降器という名前から主にロープを降りるときに使われることが連想されるが、逆にロープを少しづつ送り出したり引き上げたりといった用途にも使える。他社の安全確保にはこの機能を使用する。
下降器はロープとの摩擦力でブレーキを掛けることができるため、万が一滑落した際にロープにブレーキをかけて落下を止めることができる。摩擦力を調整する方法やハードロック(ロープの送り出しを完全に停止させること)の方法は下降器によって異なるため、咄嗟の判断で扱えるよう事前に体が覚えるまで繰り返し練習する。
カラビナ
バックアップとして岩にロープを結んだり、下降器を自分に接続したり、ロープに荷物を括り付けて引き上げたりと何かと必要になるため、最低でも3枚程度は用意したい。
ハーネス
可能であればガイド・参加者共にハーネスを装着すべきだが、壁面の角度が緩かったり高低差が低い場合は無しでもよい。ガイド自身をアンカーにする場合は下降器を接続するベルトが必要になる。
ビレイ(ジッヘル・トップロープ確保)の方法
ジッヘルとは段差の上に下降器を持った人を配置してロープを垂らし、下降器を持った人自身がアンカーとなって後続の安全を確保する技術である。様々な分野で使われている技術のため呼称も複数あり、登山やクライミングではジッヘルorビレイ、SRTではトップロープ確保と呼ばれていることが多いように感じる。ここでは本記事を作成した時点では最も一般的な「ビレイ」で統一する。
また、下降器を操作する人のことを「ビレイヤー」と呼ぶ。
位置取り
ビレイヤーは段差の上に、参加者は段差の下に位置取る。段差の下にもガイドを配置し、参加者へのロープ接続・登り方の説明を担当する。
ガイド自身がアンカーとなる場合は安全な場所に座って体勢を整え、可能なら足を踏ん張れるような岩を探して足をかけておく。近くにアンカーとして使えるものがあればスリングとカラビナで下降器を接続できるようにする。
ガイド側の準備
下降器をアンカーに接続してロープを通す。①側のロープを参加者にフィックスすることになるため、段差の下に下ろす。ロープを下ろす際は「ロープダウン!」と下に声をかけ、ロープ・カラビナ・落石に気をつけるよう注意を促す。
②側は手元においておく。



ストップを使用する場合は「半掛け」と呼ばれる掛け方で使用する。自動ロック機能を残しつつ摩擦が少なくなってロープを引き上げやすくなる反面、完全に宙吊りになった場合はストップの機能だけでは完全に静止できないというビレイ向きの使用方法である。
参加者側の準備
ハーネスを履いている場合はロープの末端にエイトノットを作成し、カラビナでハーネスのメインアタッチメントに接続する。

ハーネスがない場合は大きなエイトノットを作成してループを参加者の脇の下にくぐらせる。若しくはラビットノットとアルパインバタフライで簡易ハーネスを作成して参加者に履かせる。


登攀中の操作
参加者側の準備が完了したら「行きます!」とビレイヤーに声をかけ、「了解!」との返事を確認してから登り始める。登攀中はロープが弛まないよう、ビレイヤーはロープを引き上げる。ロープが弛んでいると万が一の際に滑落する距離が大きくなってしまうため可能な限り引き上げる。その際、負荷がかかっていない方のロープは必ずどちらかの手で持っている状態にする。万が一、手を離したタイミングで参加者が滑落した場合、ブレーキがかからずそのまま落下してしまう。


参加者がバランスを崩したり滑落しそうになったら、引き上げているロープをしっかり握ることでブレーキを掛ける。参加者の体勢が整ったら慎重にロープを緩める。
登攀完了~ロープを外すまで
登攀が完了したらロープを接続したまま参加者を安全な位置まで速やかに移動させる。安全な位置に移動し終えたらロープを外し、「到着!」と下に声を掛ける。ロープを整理してビレイヤーの体勢を整えたら次の参加者の登攀準備を始める。