3.01 横穴探検の注意点

3章

概要

お客様を安全に洞窟を楽しんでもらうためにも、ガイドは洞窟のスペシャリストでなくてはならない。スペシャリストになるための第一歩として、ガイド自身が安全に洞窟の奥まで潜って帰ってくるスキルを身に着ける必要がある。

ここではお客様のフォローは一旦置いておき、ガイドのみで洞窟を探検する想定で注意点を解説する。

道迷い

洞窟で最も起きやすいトラブルは道迷いである。暗闇な上に変化の乏しい景色、左右だけでなく上下にも曲がりくねっている上に広くなったり狭くなったりする通路を移動していると、少し気を抜くと現在地がわからなくなってしまう。

特に狭いところから広い空間に抜けるときは要注意である。抜け出した解放感でズンズン進んでしまい、戻ってきた時に「どの隙間から出てきたのだろう?」とわからなくなるケースが多い。そのため経験が浅い洞窟では頻繁に後ろを振り向き、帰り道の景色を覚えておくことが重要になる。
また特徴的な通路や生成物があった場合はしっかり記憶に残しておくと後から現在地が把握しやすい。

気象変化

横穴でよく起こるトラブルでも危険度が高いのは気象変化だ。こう書くと、洞内に雨なんか降らないし突風も吹かないと考えるかもしれない。それは必ずしも間違ってないし、実際に気象変化を洞内のケイバーが感じることは少ない。しかし、天候悪化がわからないということは、突然の大雨による鉄砲水や水没に無防備だということも意味している。いつもは水のない洞窟が短時間のうちに激流や滝になってしまう事例は数多くある。

新潟県のマイコミ平では過去に増水で何日も閉じ込められる事故が起こっているし、南西諸島に多い天井の低い水路が続くような横穴では、南国特有のスコール的な雨によって簡単に水没してしまう場所がある。水没しなくても増水した川の徒渉ができなくて閉じ込められたケースも少なくない。他の気象事例としては、水流を歩いているときに電気ショックを受け、あわてて外へ出てみると雷雨だったということもある。気象変化による危険を避けるには次のことが大切だ。

  • 正確な天候判断
    気象情報だけに頼らず、観天望気なども併用する。危険度の高い洞窟では天候の不一塞疋な時期を避ける配慮も必要。
  • 洞窟タイプの判断
    増水の危険の有無を調べる。沢の末端に開口する洞窟はもっとも危険。
  • 水量に注意する
    水流や滴下水の量が増え始めたら外は雨と考える。
  • 避難場所を確保する
    増水しても安全な場所はどこにあるかをつねに気に留めておく。

壁面をよく見ると、過去に水位が上がった痕跡が残っていることが多い。もし天井に枯れ葉やゴミがひっかかっていたら完全水没するということを意味する。洞床に泥がなく、きれいに洗われたようにツルツルしているところも激しい水流に洗われる危険性が高い。

また日本の洞窟の多くは雨が降ってから洞窟内の水位が上がり始めるまでにタイムラグがあるケースが多い。タイムラグが1~2日となることも珍しくないため、洞窟周辺の過去の天気にも気を配る必要がある。よく行く洞窟であれば、タイムラグがどのくらいなのか、どの程度の雨が降ると洞窟内が水没するのかのデータを記録して事前に把握しておくのが望ましい。

洞窟内の環境

洞内はたいてい暗闇だ。照明がなくては行動不可能となるし、あっても距離感が狂ったり恐怖心から冷静な判断力を失いがちだ。

また、低温・多湿も洞窟の特徴だ。気温は地域により異なるし冬季などは外より暖かいこともあるが、人間にとって快適な温度よりは低いことが多く、湿度の高さもあって体から熱が奪われがちになる。薄着だったり事故で行動不能になったりすると寒さで疲労も倍増し、最悪の場合、低体温症を引き起こして死に至ることもある。

洞内の特殊な環境には、ほとんどの場合、適切な装備の使用で対応できる。後述の探検装備の準備が重要となる。

技術・体力・装備不足

技術・体力・装備の不足は洞窟に特有の危険というわけではない。だが、自分たちの力量や携行装備で往復できるかどうかを見極めるのは重要なことだ。計画時はもちろんのこと、洞内で予想外の難所にでくわしたときにも判断力を要求される。少しクライミングが必要な部分や狭洞では調子よく進んでしまったはいいが、戻るときになって後悔するケースが多い。横穴では、余裕を持った装備計画のはずが、迷路にはまって電池切れになるということもある。もっとも、装備は多すぎても体力を消耗するので適量を心がけたい。

また登山でもありがちな失敗であるが、カロリー不足による体力・体温の低下も気を付けなければならない。準備や別の用事に時間を取られてご飯を食べる時間がなかった、予定よりも探検が長引いてしまったが非常食の量が少なかった等でお腹がすいて元気が出なくなることがある。空腹時は体温を維持することが難しくなるので疲れて動けなくなった状態から低体温症に至るケースもある。

3章

Posted by kokubo